5万組以上の親子を見てきた花まる学習会の代表 高濱正伸さんとラグビー界で「コーチのコーチ」として活躍する中竹竜二さんの人育て=子育て論を見ていきます。
■中竹竜二さんの提唱するオフザフィールド(off the field)って何だろう?
ラグビーというスポーツで重要なのが、「off the field 」と「on the field 」という考え方。以前は、「on the ball 」と「off the ball」 という言葉がよく知られていました。
「on the ball 」というのは、ボールを持っているときの動きのことで、「 off the ball 」は、ボールを持つ前、あるいは持っていないときの動きのことを言います。
ラグビーは 15 人でプレーをしていて、ボールを持っていないときにどうプレーするのかがとても重要なスポーツです。強いチームは、ボールを持っていないoff the ballの人たちの動き、ボールを持つ前の動きを重要視しています。文字通りにボールを持っていないときだけでなく、裏方のときや事前の準備、プレー後の仲間のケアなど、off the ballの時間の過ごし方こそが勝負を決めると考えるのです。
off the ballの動きに注目できるようになった背景には、カメラの性能が向上したことも無縁ではないと思っています。ボールとは関係のないところでプレーしている人の動きがよく見えるようになって、それらの動きが試合にどのような影響を与えるのかがビジュアルで見えるようになり、検証がしやすくなったからです。
ラグビーで言えば、守備のときのバックスの動きで、彼がずっと動いていることが、相手チームの選手に相当なプレッシャーを与えます。フルバックと呼ばれる最後尾の選手は、実際にタックルはしなくても、相手の攻撃したいスペースを予め埋めることで、どれだけプレッシャーをかけられるかということが大切で、そういうプレーが評価されるようになってきました。
昔はon the ballが評価基準でしたが、今はoff the ballが大切になっています。さらに時代は進み、ラグビー界では「off the field」という言葉が重要視されるようになってきました。
▽『オフ・ザ・フィールドの子育て』著者・中竹竜二さんインタビュー!「人を伸ばす人を育成する」プロが、子どもを伸ばす極意について語ります!(前編)
ラグビーは競技の特徴として、長く練習ができないスポーツです。練習したとしても一度に2時間くらい。そのため、off the fieldでチームのために自分をどれだけ成長させられるかが重要になります。その時間をどう使うか、どう充実させるかで、 on the field のときの自分のパフォーマンスが決まると言ってもいいでしょう。 海外の昔から強いチームは、この off the field を意識的に大切にしています。
ニュージーランド代表がここ 20 年で強くなった要因の一つに、「チーム全員で食事をする日を決めた」ということを挙げる人もいます。些細なことのように思われるかもしれませんが、それくらいoff the fieldを大切にすることが大切だと考えられているのです。私も指導に際して、off the fieldがいかに大切かを感じられるようなアプローチをするように心がけています。
遠征時にレポートを書いてもらうときも、on the fieldとoff the fieldに分けてもらっています。そうすると、「 off the fieldを頑張ると、on the fieldが向上した」という意見が出てくるようになりました。
ある選手は、高校時代までは花のポジションのエース的な存在でした。まわりとon the fieldの力の差もあって、仲間にパスをせずに自分一人で行かざるを得なかったというのもあったのでしょう。そうしたやむを得ない事情があったにせよ、チーム戦というよりは個人の能力でチームを勝ちに導いてきたタイプでした。
私はその選手のoff the fieldを観察してみました。すると、食事中に仲間と会話を楽しむことはないし、食堂を出ていくときにテーブルをちょっと拭くといったこともできません。
「お前は悪気がないと思うけど、仲間をケアするとか、少しまわりに気を遣うとか、そういうことがちょっとできていないね。その辺をこの合宿で頑張ってみよう」
そう話したら、最初は何を言われているのかわからなかったようですが、少しずつ気をつけるようになり、仲間と会話を交わしたり、ちょっとした気遣いができたりするようになっていきました。いつしか本人もそれが自然なことだと思うようになったそうです。
off the fieldでのこうしたつながりが、いざというときにコミュニケーションの面で力を発揮するのです。
こうしたことを大切にするチームは、ビジネスにおいても増えています。人と一緒にやっていくときに、日常からコミュニケーションがうまくいっているかどうかというのは、仕事をスムーズに進める上での大きな要素だからです。
「なぜ日本は、サッカーワールドカップで、ある水準以上に行けないのか」
そんな疑問に対する答えとして、同じようにoff the fieldの過ごし方に言及する人もいます。日本代表の選手は、試合の合間や練習後、部屋に帰って一人で、スマホでSNSやゲームをしているのだそうです。ほかのチームは、個々人の能力をいかに高めるかに意識を置いているように見えても、チーム戦で勝つことを目的にしているからこそ、わざわざチームで食事をするなど、あえてoff the fieldを大事にしていると言います。
ラグビー界の話に戻すと、世界にはこのoff the fieldを研究している国まであります。
ニュージーランドがそうで、このoff the fieldの効果について、リサーチャーがチームに入って研究しているのです。ニュージーランドという強豪チームが、off the fieldを大事にしているのは前から知っていました。でも、そのoff the fieldの核と言える出来事がありました。
遠征でアイルランドの空港に着いたときのことです。ラグビーは遠征時に練習の道具なども含めて相当な量の荷物を持っていきます。それこそ専用のトラックで運ぶくらいなのですが、そのトラックまでの運搬を、選手とコーチだけでやっていたのです。
空港に着いたときには、国の代表なので全員オフィシャルなスーツにネクタイ姿だったのですが、運ぶときにはスーツを脱ぎ、ネクタイを外して全員で汗を流して荷下ろしをやっていました。それに驚いた報道の人が、「監督もやるんですね?」と聞くと、「みんなでやったほうがいいに決まってる。なにつまらない質問してるの?」と答えました。 off the field からチーム作りはすでに始まっていると感じられる出来事でした。
■高濱正伸さんから親への解説!ここを活かして!
off the fieldを鍛えるとスポーツの結果に現れるというのは納得です。
私はかつて、全力で子どもたちを認めて伸ばし、彼らの自己肯定感をつけさせようと思ったものの限界を感じたことがありました。私はせいぜい週1回 90 分しかその子たちに接することができない。
でも、子どもたちは圧倒的に家庭にいる時間が長いのです。つまり、家庭という場、いわゆるoff the fieldで影響力のあるお母さんの存在が大事だと悟ったのです。それからはお母さんたちをニコニコにすることが子どもたちをさらに伸ばしてくれると考えて、親向けの講演を始めました。
学校や習い事で子どもがより活き活きと伸びていってほしいと思うなら、家や家族との時間をもっと大事にすることを考えないといけないのです。
off the field 、すごく大切です。
―『どんな個性も活きるスポーツ・ラグビーに学ぶ オフ・ザ・フィールドの子育て』より抜粋・編集 ※対談で高濱正伸先生が登場します!
◆『オフ・ザ・フィールドの子育て』の紹介◆
本書では、「多様性」というキーワードに着目し、それを独自に育んできたラグビーに学ぶことで、子どもたちに多様性を身につけてもらえる、子育てをよりよくできるのではないかと考えました。教えてくれるのは、「コーチのコーチ」をしてきた“教え方のプロ”である中竹竜二氏。
さらに、花まる学習会を主宰する高濱正伸先生から、著者の考えに対して、「子育て」や「学び」の観点から、適宜コメントを入れていただきました。
また、巻末にはお二人の対談を掲載し、ラグビーに学ぶことの意義についてご紹介しています。
改めて「ワンチーム」という言葉の意味や、ラグビーが大事にしてきた「オフ・ザ・フィールド」という考え方を知ることで、わが子の個性をどのように活かしたらよいかを考えるきっかけとし、わが子が実際に輝ける場所を親子で一緒に見つけてほしいと思います。
“サンドウィッチマン推薦! ”
ラグビーがなかったら、いまの俺たちはいなかったと思う。「中竹さん、ラグビーから学んだことは、今に活きています! 」
中竹竜二(著)『どんな個性も活きるスポーツ・ラグビーに学ぶ オフ・ザ・フィールドの子育て』
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▽出版記念講演会
9月15日(火)中竹 竜二氏 × 高濱 正伸「子どもを伸ばす親の6ヶ条」【Zoomライブ配信】
―中竹竜二( Nakatake Ryuji )
株式会社チームボックス代表取締役
日本ラグビーフットボール協会理事
1973年福岡県生まれ。早稲田大学卒業、レスター大学大学院修了。三菱総合研究所を経て、早稲田大学ラグビー蹴球部監督に就任し、自律支援型の指導法で大学選手権二連覇を果たす。2010年、日本ラグビーフットボール協会「コーチのコーチ」、指導者を指導する立場であるコーチングディレクターに就任。2012年より3期にわたりU20日本代表ヘッドコーチを経て、2016年には日本代表ヘッドコーチ代行も兼務。2014年、企業のリーダー育成トレーニングを行う株式会社チームボックス設立。2018年、コーチの学びの場を創出し促進するための団体、スポーツコーチングJapanを設立、代表理事を務める。
ほかに、一般社団法人日本ウィルチェアーラグビー連盟 副理事長 など。
著書に『新版リーダーシップからフォロワーシップへ カリスマリーダー不要の組織づくりとは』(CCCメディアハウス)など多数。
2020年、初の育児書『どんな個性も活きるスポーツ・ラグビーに学ぶ オフ・ザ・フィールドの子育て』を執筆。