中竹竜二×新山智也「スポーツに学ぶ人間力の育て方 スポーツ × 子育て=人間力育て」(後編)

ラグビーをはじめとするスポーツ界ではコーチのコーチとして、またビジネスの分野ではリーダー育成でも定評のある中竹竜二さん。今年、はじめて育児についての見解をまとめた、『どんな個性も活きるスポーツ・ラグビーに学ぶ オフ・ザ・フィールドの子育て』を上梓しました。

その出版記念第1弾として、中竹竜二さんと、香川真司選手とのコラボによる人間力を磨くサッカー教室「Hanaspo」代表の新山智也さんの対談が行われました。テーマは、「スポーツに学ぶ人間力の育て方 スポーツ × 子育て=人間力育て」今回は、その内容をお伝えしています。

8月5日(水)中竹 竜二氏 × 新山 智也「スポーツに学ぶ人間力の育て方 スポーツ × 子育て=人間力育て」

 

▽前編はこちら

 

目次

指導者は、「いかに教えるか」ではなく「いかに学ぶか」

新山さん:視聴者の方から「指導者の指導者として中竹さんが、指導者の方に必ず伝えていることや、大事にしていることは何ですか?」という質問をいただいています。

中竹さん:そうですね、指導者に必ず伝えることのひとつに、「いかに教えるかではなく、コーチがいかに学ぶかが大事」というのがあります。世界で勝つためには、コーチが学ぶ能力の方が圧倒的に重要です。これに尽きます。

サッカーの有名な監督ロジェ・ルメールによる、「学ぶことをやめたらコーチをやめなさい」という名言もあります。

また、成人教育学のジャック・メジローは「大人の学びとは痛みです」とも言っています。大人になって学ぶということは、プライドも傷つきますし、過去を疑う必要もでてくるなど、かなりの苦痛を伴うものです。しかし、この覚悟を決めたからこそ、いいチームを作っていくのです。いままでの経験をゼロにして、その価値観を捨てたからこそ、成長していくことができるのですね。

コーチのコーチというと、偉い人だと捉えたり、嫌悪感を持つ人もいますが、僕は、教えているのではなく、伝えているのです。「皆さん、痛みを伴い大変だけれど、一緒に学びましょうね。そうすると、あなたも選手も伸びますよ。」ということのメッセンジャーなのです。

新山さん:いままでの自分を一度なくすといいうのは、難しいことだと思いますが、どのように伝えていくのでしょうか。

中竹さん:人間は完璧ではないので、コーチには、「失敗や弱みをさらけ出すのが大事」という話を常にしています。コーチは優秀であろうとするものですが、非完璧さや不完全さを出していくことが出発点なのです。プライドがだいぶ引っ掛かると思いますが、これをしないと信頼関係は構築されません。コーチの方には、ここを分かってほしいと思います。ところが、多くのコーチは逆に、「コーチには威厳があるべきだ」とか「分からないという言葉を使わない」「正しくあるべき」と思っています。多くのコーチは、その競技の勉強だけをしたがりますが、この概念を根底から覆せるかが重要なのです。「はやく、『I don‘t know. 』『I can do it. 』この言葉を言うことができるようになってくださいね。」と言います。

新山さん:ご家庭から「どうやったら勉強するようになりますか」という質問をいただきますが、「お母さんも分からないから調べてみるね。」などと、一種の弱さを見せられれば、「お母さんでもそうなら、私も調べてみよう。」などと思えるものだと思います。この点からも、弱さをさらけ出すことと、学び続けることは連動していると思います。

中竹さん:まさにその通りですね、コーチングもいろいろありますが、教育心理学での子どもは、「親の言っていることはやらないが、親のやっていることはやるもの」なのです。「どうやったら勉強するようになりますか。」と言うお母さんは、おそらく、ご本人が勉強していないか、百歩譲っても、勉強している姿をお子さんに見せていないかのどちらかだと思います。コーチングでも、「Teach」や「tell」より「show」のほうがパワフルなのですし、身近な人の「show」が一番影響します。

新山さん:そうですよね、「子どもが本を全く読まない」というお母さんにお聞きすると、「私は読みません。」という返答があったりします。自分がその姿をまず見せるというのは、とても大事だと思います。

日々における「decision」の活かし方

新山さん:ところで、話が少し戻るのですが、「decisionについてもう少し詳しく教えていただきたいです。」との質問をいただきました。

中竹さん:人間は常に「decision」しているものです。食べるもの、着るもの…全部そうです。これがルーティン化していくと、「decision」しなくなります。習慣化されたものは、無意識にしているので、決定する必要がなくなるのですね。この習慣が集団に及んだところが、僕の専門の組織文化なわけですが、いい組織文化の場合は、それを醸成したほうがよく、悪い文化がはびこっている場合は、一人ひとりの行動によって変えていくしかありません。日常生活においては、大人も子どもも、ルーティンとして無意識にしていることを、いったん洗い出して、自分にとっていい「decision」なのか違うのかを見直すことが重要です。その際には、その行動の目的や目標を明確に洗い出すことも大事です。また、自分にとっての「いいdecision」「よくないdecision」の基準を明確にできると更にいいです。

スポーツでは、特に映像に録るとそうなのですが、一つひとつの「decision」が明確に見えてくるので、それに基づいて反省することができます。極端な話ですが、本当に能力開発をしたいなら、お箸の持ち方からドアの締め方まで、映像に録って分析をかけるとよいのではないかと思います。

新山さん:続いて視聴者の方からの質問ですが、「子どもの学ぶスポーツをどう選べばよいでしょうか。」といただいています。

中竹さん:お子さんが何を選ぶか、その選択のための土壌を作ってあげるといいかもしれないですね。これこそ、子どもにとって最高の選択、決断の場です。人生は、何度「いいdecision」をしたかによるわけです。お子さんがするスポーツに沢山の選択肢があるのなら、例えば、体験会全てに何回も行かせてあげるなどして、2つ選ぶなら2つでもいいですよね。もしスポーツが嫌なら、音楽やアートでもいいです。ぜひ、ご本人に決めさせていただけるといいと思います。もし、本人が「何を選べばいいかわからない」というなら、「これならやってみたい」という言葉をお子さんが発することができるまで、お膳立てして付き合ってあげることだと思います。

新山:そうですよね、勉強もやらされていたらだめです。子どもたちが、「面白い!」と思うことは還元力が高いと思い、私たちも大事にしている観点です。

中竹さんが「ラグビーで人間力を鍛える教室」を主宰するなら?

新山さん:最後に、私から質問をさせていただきたいのですが、中竹さんがもし、「ラグビーで人間力を鍛える教室」を主宰するとしたら、どのような教室にしますか?

中竹さん:そうですね、「自分で全部考えてください」という形式にすると思います。早稲田大学で監督をしていたときからそうですが、基本は「考えてもらって」いました。多くの指導者が「これをしなければならない」と思っていることを、だいぶ手放して、いかに託すかを重視しました。

指導者は、本質的には「託す仕事」なのです。試合の日には、選手に託して、送り出さなければならないのですから。もっとも、詫さなくてもいいところは、極力コントロールしたくなるのが人間の性なので、そのせめぎ合いではあります。僕は、最終的には託すことになるのなら、そのプロセスも託すぞ、というスタンスでいます。新しくチームを作るときは、「どういうチームにしたいか」と私から聞くので、選手は「監督が決めるのではないのですか」と驚きます。これは確かに、時間も圧倒的にかかり大変ですが、幸福学的にみても、「自分で選んだ」という決定感がその後に大きく影響していくものですから、僕は、「自分で物事を決める」という覚悟がとても重要だというポリシーでいます。

新山さん:それは本当に理想だと思います。「幼児がその選択する力を育むためには、どのような働きかけをするべきですか」との質問をいただきました。これについては、「考えるサッカー教室」などもあるのですが、広いコートで、「何をしてもいいよ。」と言われると、逆に何も考えられなくなったりと、幼児に選択をしてもらうのはなかなか難しいものです。そこで、私たちHanaspoでは、「選択肢を制限することを大事にしています。すると子どもたちは、何かを選択しようとしたり、あるいは、その枠を飛び越えようとしたりします。

中竹さん:その通りですね。幼児には、適切な選択肢に限定してあげるのがいいですね。5W1Hなどによる質問の仕方もありますが、子どもたちに一番寄り添った方法というのは「選択肢質問」ですね。このような大人の質問力も大事です。質問力は筋トレと一緒なので、鍛えないとだめです。幼児への質問は難しいからこそ、今日を機会に見直していただけるといいかもしれないですね。

新山さん:そろそろお時間になりましたが、最後に皆さんに伝えたいことがありましたらお願いします。

中竹さん:今日は貴重なお時間を視聴していただき、ありがとうございました。今回はスポーツの話でしたけれど、スポーツが全てではなく、アートなどでも同じエッセンスを学ぶことができます。子どもたちの可能性を広げるための選択肢はたくさんある、ということをお分かりいただけると嬉しく思います。僕はコーチのコーチとして、皆さんとともに学ぶことを続けていきたいと思います。

新山さん:ありがとうございました。

―中竹竜二( Nakatake Ryuji )

画像1

株式会社チームボックス代表取締役

日本ラグビーフットボール協会理事

1973年福岡県生まれ。早稲田大学卒業、レスター大学大学院修了。三菱総合研究所を経て、早稲田大学ラグビー蹴球部監督に就任し、自律支援型の指導法で大学選手権二連覇を果たす。2010年、日本ラグビーフットボール協会「コーチのコーチ」、指導者を指導する立場であるコーチングディレクターに就任。2012年より3期にわたりU20日本代表ヘッドコーチを経て、2016年には日本代表ヘッドコーチ代行も兼務。2014年、企業のリーダー育成トレーニングを行う株式会社チームボックス設立。2018年、コーチの学びの場を創出し促進するための団体、スポーツコーチングJapanを設立、代表理事を務める。ほかに、一般社団法人日本ウィルチェアーラグビー連盟 副理事長 など。

著書に『新版リーダーシップからフォロワーシップへ カリスマリーダー不要の組織づくりとは』(CCCメディアハウス)など多数。

2020年、初の育児書『どんな個性も活きるスポーツ・ラグビーに学ぶ オフ・ザ・フィールドの子育て』を執筆。

◆『オフ・ザ・フィールドの子育て』の紹介◆

本書では、「多様性」というキーワードに着目し、それを独自に育んできたラグビーに学ぶことで、子どもたちに多様性を身につけてもらえる、子育てをよりよくできるのではないかと考えました。

教えてくれるのは、「コーチのコーチ」をしてきた“教え方のプロ”である中竹竜二氏。

さらに、花まる学習会を主宰する高濱正伸先生から、著者の考えに対して、「子育て」や「学び」の観点から、適宜コメントを入れていただきました。また、巻末にはお二人の対談を掲載し、ラグビーに学ぶことの意義についてご紹介しています。

改めて「ワンチーム」という言葉の意味や、ラグビーが大事にしてきた「オフ・ザ・フィールド」という考え方を知ることで、わが子の個性をどのように活かしたらよいかを考えるきっかけとし、わが子が実際に輝ける場所を親子で一緒に見つけてほしいと思います。

“サンドウィッチマン推薦! ”

ラグビーがなかったら、いまの俺たちはいなかったと思う。

「中竹さん、ラグビーから学んだことは、今に活きています! 」

[目次より]

1章■「自分らしさ」を見つければ、可能性はずっと広がる!

人を育てるための第一歩

自分との向き合い方、振り返り方

「好き」と「得意」は分けて考える

弱さをさらけ出すことを恐れない/「自分らしさ」を見つける方法 ……ほか

2章■off the fieldで子どもを伸ばす親の6ヵ条

親が陥る間違った「期待」のかけ方とは?

成功している未来の自分に会いに行く

子どもを伸ばす親になるための6ヵ条

成長の度合いを測る方法 ……ほか

3章■自他ともに成長するための「フォロワーシップ」

全力でフォローする人がいるチームは強い!

全員がリーダーになる必要がある時代

ラグビーが多くの人に感動を与えた理由

型破りなキャプテンとともに学んだ1年 ……ほか

4章■特別対談vs.高濱正伸さん

購入はコチラ▷Amazon

「人を育てる」ための、ある視点―ラグビーのコーチのコーチ・中竹竜二さん

㈱エッセンシャル出版は、「本質」を共に探求し、共に「創造」していく出版社です。本を真剣につくり続けて20年以上になります。読み捨てられるような本ではなく、なんとなく持ち続けて、何かあった時にふと思い出して、再度、手に取りたくなるような本を作っていきたいと思っています。

(株)エッセンシャル出版社
〒103-0001
東京都中央区日本橋小伝馬町7番10号 ウインド小伝馬町Ⅱビル6階
TEL:03-3527-3735 FAX:03-3527-3736
公式 : https://www.essential-p.com

関連記事