3万時間をゲームに費やした小幡和輝さん
「ゲームの時間は無駄だと思いつつも、ついつい…」
「子どもがゲームばかりしていて困っている…」
「そもそもゲームって何の役に立つの?」
このような思いをお持ちの方には、プロゲーマーではないものの「ゲームから学んだことが人生に活きている」と感じ、その発信も積極的に行っている小幡和輝さんの所見が参考になるかもしれません。
●小幡和輝(Obata Kazuki)
NagomiShareFund & 地方創生会議Founder /内閣府地域活性化伝道師;/GlobalShapers(ダボス会議が認定する世界の若手リーダー)/#不登校は不幸じゃない発起人。
1994年和歌山県生まれ。幼稚園から除々に通園しなくなり、小学校2年生から約10 年間の不登校を経験。当時は1日のほとんどをゲームに費やし、トータルのプレイ時間は30,000 時間を超える。その後、定時制高校に入学。地域のために活動する同世代、社会人に影響を受け、高校3年で起業。毎年夏に、不登校生を対象にしたイベント #不登校は不幸じゃない を全国100ヶ所で開催、ゲームの家庭教師「ゲムトレ」など、様々なプロジェクトを立ち上げている。
小幡さんは、著書『ゲームは人生の役に立つ。― 生かすも殺すもあなた次第』で、各界で活躍する4人の方たちと対談し、ゲームについて多方面から考察しています。今回は、その4つの対談からいくつかのトピックをお届けします。以下は、本文からの抜粋、または改編した内容です。
本書で対象となるゲーム
・テレビゲームのような家庭用ゲーム機
・スマホのゲームアプリ
・ボードゲームやトランプようなアナログゲーム
・ゲームセンターのようなゲーム・スポーツ …etc
「僕にとってのゲームは、他者との〝コミュニケーションツール〞でした。また、ルールから攻略法を見つけ出して実生活に応用するための〝学習コンテンツ〞でもありました。10年間不登校をした僕は、ゲームに救われました。」
澤田智洋さん 世界ゆるスポーツ協会 代表理事
世界ゆるスポーツ協会代表理事。コピーライター。映画『ダークナイト・ライジング』の「伝説が、壮絶に、終わる。」などのコピーを手がけながら、数多くのビジネスをプロデュースしている。誰もが笑いながら楽しめるスポーツを数多く発明する「世界ゆるスポーツ協会」代表理事。視覚障害者アテンドロボッ「NIN_NIN」の発案者・プロデューサー。義足女性のファッションショー「切断ヴィーナスショー」プロデューサー。
◯ゲームは何故「悪」のイメージがつきやすいのか?
小幡さん:僕は、スポーツって広義的には「ゲーム」だと思っているのですが、「野球はいいけどゲームはダメ」みたいに言われるのは何故でしょう?
澤田さん:スポーツはそもそも「健康増進」を目的に日本に入ってきたというのもあるし、太陽の下で観客の視線を集めているその様子から明るい健康的なイメージがあるよね。また、すでにロールモデルの選手も沢山いて、経済的にも彼らは人生の勝者。一方、家庭用などのゲームは「娯楽」とか「息抜き」が入口で、不健康にも陽の光をあびずに、モニターの光で顔を青白くしてしている…この印象が、両者の差の一因になっているのではないかと思うよ。でも僕は、「身体性を伴う」という違いがあるものの、スポーツもまぎれもなくゲームだという立場でいるし、ゲームの言葉について一度整理したほうがいいと思っている。
僕がゆるスポーツを始めたのには、ゲームのコンテンツがこんなに増えているなら、スポーツの種類も増えていいよね、とゲームにインスパイアされた側面もあるんだ。ゆるスポーツは、「近代スポーツでは勝てない人でも勝てる」という、「勝ち」のダイバーシテイだったりもする。スポーツもやっぱり「遊び」で、無責任で「素」になることができるもの。これは、みんなが人生に取り入れたらいいものだと思う。
◯可視化されていないゲームの価値をアカデミックに証明できるといい
小幡さん:「子どもがゲームにハマっちゃって宿題をやらないんです」って言われることがあるんですけど、それは宿題をやらないのが悪いのであって、ゲームが悪いわけじゃないと僕は思うんです。
澤田さん:保護者の視点からは、ゲームをしている子どもを見ても何かが積み上がっているようには思えないんだろうね。でも、当の子どもは攻略本を読み込んで、必死にプロセスを研究しているかもしれない。「研究」って人生にとってすごく大切なことだと思うし、そのきっかけにゲームがなっているかもしれないわけで、そういった可視化されていない価値を、もっとアカデミックに説明することがゲームには必要なんじゃないかと思う。
同様に、ゲームをしている人がどういう状態にあるのかを測定できるといいね。ゲームをやっている子どもの状態と、イチローがバッターボックスで構えたときのレベルが同じような「ゾーン」にいるということがわかれば、不安も解消するかもしれない。
澤田さんと小幡さんの対談内容:スポーツの起源とゲーム/ スポーツとゲームの共通項を探る/ ゲームの多様性とは/ 共通言語としてのゲーム/ ゲームのイメージを変える要素/ ほとんど唯一「素」になれる場所/ 「家族ゲーム」の勧め
茂木健一郎さん 脳科学者
1962 年10 月20 日東京生まれ。ソニーコンピュータサイエンス研究所上級研究員。東京大学、日本女子大学非常勤講師。東京大学理学部、法学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て現職。専門は脳科学、認知科学。「クオリア」(感覚の持つ質感)をキーワードとして脳と心の関係を研究するとともに、文芸評論、美術評論にも取り組んでいる。『脳と仮想』で、第四回小林秀雄賞を受賞。2006 年1月より、NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』キャスター。
◯脳科学者に聞く、「ゲーム依存症」
小幡さん:一般的に、ゲーム=テレビゲームかスマホゲームと思われていますが、テレビゲームとかスマホゲームの依存症というのはあるのですか?
茂木さん:それはあるよ。WHOの「ゲーム依存症」の基準では、「ゲームをした時間」ではなく「それによって社会生活が破綻しているとか、やるべきことをやっていないという状態」が「依存症」となる。例えば、定期試験の前にゲームをやりすぎて、試験の準備ができていないとなると「ゲーム依存症」となるけれど、長時間ゲームをしていたとしても、試験の前になるとパッと切り替えて試験を切り抜くことができれば、それは「依存症」とはならないんだね。
数学者は数学依存症、野球選手は野球依存症なわけだけど、「ゲーム依存症」がこれまで許容されてこなかったのは、数学や野球と違い、ゲームを続けても、社会的に成功して生活ができるという道筋がなかったから。ただ、eスポーツができて、今その状況が変わりつつあるといえばそうだね。
◯わが子がゲームばかりしているのを注意したくなったら?―「マインドフルネス」
茂木さん:ゲームをやっている子を見て、「何でいつまでもゲームをやってるの!」とお母さんが言うのは最悪の選択なんだよ。明日試験なのにいつまでもゲームをしているとしたら、「あら、ゲームやってるの?おもしろそうねぇ〜。…でも、お母さん思うんだけど、明日試験でしょう?ゲームやってて大丈夫かなって不安になるんだけど。試験がうまくいかなかったら落第するかもしれないし、何より和輝が行きたい学校に行けなくなるかもしれないよ。そうなったらお母さんも悲しくなっちゃうけど、ゲームやってて大丈夫かしら」みたいに言うわけ。こう言っている途中で、もう子どもは勉強を始めてる。
これは、いま注目されている「マインドフルネス」(自分が置かれている状況を全部客観的に捉える)に沿った言い方で、これは子どもだけでなく、お母さんにも必要な事だと思う。マインドフルネスは、想像力を育ててコミュニケーションを円滑にすることができるとされていて、そのポイントは、こうあるべきだという常識やルール、価値観からスタートするのではなく、そのときに自分が感じていることをありのままに受け止め、それをそのまま伝えるというのが基本的な考え方になっている。
依存症について言えば、自分の置かれた状況を見ないという“逃げている” 状態だから、「マインドフルネス」ではないということになるね。
茂木さんと小幡さんの対談内容:「ゲーム」の意味/ 学校という存在/ 脳科学者に訊く「ゲーム依存症」について/ 親子に必要な「マインドフルネス」 / 世代の断絶を埋めるためにすべきこと
池田芳正さん 株式会社スタジオ池っち 代表取締役社長
カードゲームデザイナー・アニメ原作者、カードショップFC「カードキングダム」創業者。世界初のトレーディングカードゲーム解説動画『カードキングダムチャンネル』を立ち上げる。2019 年現在、YouTube のチャンネル登録数は36 万人以上。株式会社ブシロード発売のトレーディングカードゲーム「バディファイト」原作者。Twitter@ikettitencho
◯カードゲームは人生を教えてくれる
小幡さん:僕は、カードゲームからいろいろなことを学んだと思っています。遊戯王カードの場合だと、1万種類以上の中から40枚を選んで“デッキ”を組んだりするので、仮説検証する力や、クリエイティビティ力がついたりしますし。カードの価値が上下することから、安いときに買って高いときに売る…こうしてお小遣い稼ぎをしたりもしました。
池田さん:それは役に立ったかもしれないね。ドイツでは、小学生はスポーツ選手のトレカを積極的に買うべきだという話があると聞いた。「株」の勉強になるからだって。
カードゲームを扱っている僕に言わせると、結局、カードゲームから学べることは、行き着くところ「人と話ができること」だと思う。特にアナログのカードゲームの場合は、人間と人間がぶつかり合って、目を見て話し合いながらゲームができることから、「子どもたちにとって間違いなく良い」と自信を持って言うことができる。勝敗が絡んでくるからコミュニケーションが余計に濃厚になるよね。
日本の子どもたちは「議論ができない」と言われるけど、世の中には決着をつけないといけないことが多い。カードゲームには、必ず「決着」がついて回るし、子どものうちから「トライアンドエラーを何度も繰り返しながら、何かしらの決着をつける」という体験をするのはいいことだと思います。
理論は合っているはずなのに「運」の要素で負けることもあるわけだから、その理不尽さこそが、まさに本当の人生なんだよ。トレーディングカードゲームに慣れ親しんだ子どもは、大人になって社会に出てから営業が得意になるんじゃないかな。人とぶつかり合っても恐れずに自分の意見をちゃんと言えるようになるから。
まあ、カードゲームだけじゃないけどね。僕がもし農業をやっていたら、農業を通じて今の話をしたと思う。でも、こういう話ができるくらい、カードゲームは悪いものじゃないってことです。
◯ゲームに対する大人の責任
小幡さん:僕がカードゲームにハマったのは、中学生のときで、自分のお小遣いで可能な範囲で買っていました。
池田さん:「お小遣いの中で」というのが小幡くんはできたけど、それができない子もいる。僕はカードゲームを推すけれども、かといってカードゲームが特別に優れていると思っているわけでもないんだ。さっき言ったことを翻すようだけどね。大人が射幸心をあおられて…というのは、自己責任だからいいけれど、心が鍛えられていない子どもには、本来売ってはいけないものだったのではないかと思う。ところが、日本では子どもにカードを売ってしまって、いわばパンドラの箱を開けてしまったのだね。では、どうするべきか?ただ、規制をしたり禁止したりするのではなく、何がどう悪く、どう付き合うべきかという枠組みを決めてあげたり、背中を押すけれどもちゃんと守ってあげるのが、大人の仕事だと思う。僕はカードゲームを売りながらも、そういうことをずっと考えています。
池田さんと小幡さんの対談内容:「ゲーム」はすでに善悪では語れない?/ カードゲームは人生を教えてくれる道しるべ/ わが子がオタクになったら!?
▽YouTubeで対談の一部が公開されています。
高濱正伸さん 花まる学習会代表
1959 年、熊本県生まれ。東京大学大学院修士課程修了。1993 年、小学校低学年向けに「作文」「読書」「思考力」「野外体験」を重視した学習教室「花まる学習会」を設立。同時に、引きこもりや不登校児の教育も開始。1995年、小学校4年生から中学校3年生対象の進学塾「スクールFC」を設立。算数オリンピック委員会理事、NPO法人「子育て応援隊むぎぐみ」の理事長も務める。2015 年より、佐賀県武雄市での官民一体型学校を開始。「情熱大陸」や「カンブリア宮殿」ほかのテレビ出演も多く、教育に関する幅広い活動を行なっている。『小3までに育てたい算数脳』ほか著書多数。
◯いいゲームと悪いゲーム ― 人とのつながりがあるかどうか
小幡さん:僕がやってきたゲームは、相手がしっかり見えてコミュニケーションをとることができるものでした。今、「人とつながる」ことが目的のゲームも多く出回るようになりましたが、結局、誰と対戦しているかわからず、AI相手に戦っているのと変わらないようなものもあります。「オンラインでつながっているからコミュニケーションが成立している」と思いこむのではなく、「それを通じて人とつながっているかどうか」という視点が大切だと思います。
高濱さん:そうだね。僕は、ゲームによって人生を台無しにした人もたくさん見てきたけれど、だからと言って原理主義的に「ゲームはダメ」と言いたい訳ではなくて、「人とつながる力を身に付けなくてはいけない時期に、画面と自分だけによくなるのはよくない」という考えでいます。「囲碁や将棋は基本的によい」とずっと言ってきたのは、「目の前に相手がいるから」。これは科学的にも証明されていて、相手と対峙しているときに脳の前頭葉が活発に働いているんですね。カードゲームやボードゲームを良いと言い続けてきたのも、これが理由です。アナログの対面型ゲームなら、人間対人間の心理的な駆け引きを濃密な空気の中で学ぶことができたりするよね。
もうひとつ、「ゲームをしていると外に出なくなる」と言ってきたけれど、「ポケモンGO」のように、外に出るゲームもでてきたよね。我々の世代は、「画面と自分だけ」というのが注目され始めた時期だったし、現状は変わっているものの、お母さんたちには、まだまだゲームに対する偏見が少なからずあるのだと思います。
◯ゲームにハングリー精神を
小幡さん:最近、ゲームについての不満を感じている部分があるのですが、それは「調べたらすぐに答えが分かってしまう」ということです。僕らが子どもの頃は、まだそういう状況ではなかったので、本屋さんで攻略本を買ってきては、自分なりに必死で勉強したのですが…。漢字も攻略本でたくさん覚えました。
高濱さん:攻略本ね、あれはいいよ。何しろ読書でしょ。しかも超集中するし。お母さんから、「うちの子に本を読ませたいんですけど」と相談されたら、「ゲームの攻略本でもいいんですよ」と言ってきたよ。ゲームの攻略が入試攻略に間違いなく直結しているというのもあって、これは絶対に言い切れることです。
小幡さん:いまのゲームは、課金したらすぐに武器が増えるとか、今も言ったように、調べたらすぐにわかるし、ゲームの中で試行錯誤する必要がどんどんなくなっているんです。カードゲームでも同じことを感じていて、優勝したデッキを丸々コピーして使っている子が多い。「何でこのカードが入ってるの?」って訊くと、「◯◯さんが使ってたから」って言うし、「今度新しいカードが出てきたらどうするの?」って訊くと、「わかんない。また調べる」とか答える。
高濱さん:うわ、最悪だな。ということは、ゲーム業界のアドバイザー的な立場の小幡くんとしては、プレイヤーがハングリーにならざるを得ないゲームを設計すればいいんじゃない? 教えてもらいたくても教えてもらえない、自分で必死に考えるしかないゲームを。ハングリーさが求められたり、工夫し続けないとクリアできなかったり。
世の中的に、「小幡ゲーム系だったらお母さんもOK」みたいなものを。ビビッドに脳を活動させるために必要なことは、「何でかなぁ?よし!こうしてみよう!」と考えたり、工夫したりすることだからね。
高濱さんと小幡さんの対談内容:「画面と自分」の孤立した世界の危うさ / 人間同士のつながりを学ぶ/ ゲームを役立つものにするには/ これからのゲームに何を求めるか…/ 没頭する力とバランス感覚
―小幡和輝 ( Obata Kazuki )
NagomiShareFund & 地方創生会議 Founder/内閣府地域活性化伝道師。
#不登校は不幸じゃない 発起人。
1994年、和歌山県生まれ。約10年間の不登校を経験。当時は1日のほとんどをゲームに費やし、トータルのプレイ時間は30,000時間を超える。その後、定時制高校に入学。地域のために活動する同世代、社会人に影響を受け高校3年で起業。様々なプロジェクトを立ち上げる。
2017年、47都道府県すべてから参加者を集めて世界遺産の高野山で開催した「地方創生会議」がTwitterのトレンド1位を獲得。その後、クラウドファンディングと連携した1億円規模の地方創生ファンド「NagomiShareFund」を設立し、地方創生の新しい仕組みを構築中。GlobalShapers(ダボス会議が認定する世界の若手リーダー)に選出。
著書に『ゲームは人生の役に立つ。―生かすも殺すもあなた次第』『学校は行かなくてもいい親子で読みたい「正しい不登校のやり方」』がある。
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