「BTS(防弾少年団)」の新曲がアメリカ・ビルボードの1位を獲得。これぞまさに「アジアン・ニュービートニクス」が世界に踊りだした象徴なのだ。

『アジアン・ニュー・ビートニクス』が躍動し始める新・コロナ時代②

〜「アジアン・ニュー・ビートニクスとK-POPの躍動」〜

いま、世界は「コロナ・パンデミック」という不思議な変革期に立ち向かっている。いままでの日常が消えうせ、巷には「未知のウイルス」「恐怖」「危険」という言葉やメッセージが至る所に溢れ出している。しかし、なぜか刻々と迫る死への絶望感が生み出す暗闇も、世紀末的カオスの破壊現象や、心なしかそこに芽生えるアナーキーな好奇心もほとんど感じられない。

この不思議な変革期は、様々なものを失ったが、同時に様々なものも産み出している。そのひとつが、アジアで再生しつつあるビートゼネレーション、「アジアン・ニュー・ビートニクス」たちだ。

ヒッピー文化を生み、ドラッグカルチャーの時代を創出し、ボブディランの歌声に人々が熱狂したビートゼネレーション。1930年代の「ロストゼネレーション=失われた世代」をあっという間に蹴散らし、50年代に彗星のように現れ「俺たちはどう生きるかなのだ」と、熱く歌や詩、アートに陶酔し「路上」の生活に憧れた世代だ。ボブディラン、ジャニスジョプリン、デビットボウイ、彼らは、みんなオン・ザ・ロードに憧れ人生の舵を切ったのだ。

この大人になりかかった「青年たち」の生きざまこそが、いま再び「アジアン・ニュー・ビートニクス」としてアジアで再生しだしている。

「ビバップ散文体」と言われジャズの即興演奏のように書き連ねたケルアックの「路上」は、地上の道からインターネットで繋がるソーシャルメディアの空間を新たな「路上」として生まれ変わり、そこが彼らが生きる場所となった。「俺たちの生き方」を歌や詩、そしてアートでネット社会のデジタル空間を舞台に変えて表現しているのだ。

この新たなアジアに生まれたニューゼネレーションをさらに躍動させる原動力こそがコロナ・パンデミックの新時代に隠されているのだ。

【著者プロフィール】

鈴木ジョージ  JOJI SUZUKI

作家、ジャーナリスト。アジア各国を長年にわたり頻繁に取材、アジアの最前線の兆しを追い続けている。「アジア黄金郷の旅」「猛毒大国・中国を行く」他著書多数。サックスプレーヤーとしてジャズライブも開催している。

アジアン・ニュー・ビートニクス』が躍動し始める新・コロナ時代

またも「BTS(防弾少年団)」の新曲がアメリカ・ビルボードの1位を獲得した。これぞまさに「アジアン・ニュー・ビートニクス」が世界に踊りだした象徴なのだ。

BTS(ビーティーエス)・・・2013年にデビューした韓国の7人組男性ヒップホップグループ。かつての名称は「防弾少年団」(ぼうだんしょうねんだん)。略称はバンタン。公式ファンクラブ名はARMY。
グループ名「防弾少年団」には「10代・20代に向けられる社会的偏見や抑圧を防ぎ、自分たちの音楽を守り抜く」という意味がこめられている。

2017年から、世界進出を視野に入れ、防弾少年団のローマ字表記である「Bangtan Sonyeondan」の略称で、英語圏向けの名称であった「BTS」が正式名称として用いられるようになった。同時に「現実に安住することなく、夢に向かって絶えず成長していく青春」という意味を込めて、BTSを「Beyond The Scene」と定義付けた。その他にも、「Bullet Proof Boys」や「Bulletproof Boy Scout」と訳されることがある。

K-POPを世界に知らしめた代表選手ともいえる「BTS(防弾少年団)」。

彼らがまたも音楽の殿堂「アメリカ・ビルボードヒットチャート」最新ランキングで堂々の1位を獲得し、話題をさらっている。

彼らが凄いのは、ただ、最新アルバム「BE」の新曲「Life Goes On」が1位に輝いたということだけではない。今年8月には、「Dynamic」が1位に、そして「Savage Love」が10月に、そして今回の「Life Goes On」と、わずか数か月のあっという間に、3曲連続でトップの座を射止めているのだ。

こんな短期間にビルボード1位を連続で獲得したのは、なんとあのビートルズ以降初めての快挙。しかもそれが非英語圏のアーティストだということにも大きな価値がある。長いビルボードの歴史でも1位を獲得した「非英語圏」のアーティストのアルバムはわずか11枚しかない。しかし、その中の約半分、なんと5枚が「BTS」のアルバムなのだ。

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歴史あるビルボードにその名を刻んだ「BTS」。その素晴らしいアーティストとしての音楽的才能にアメリカの音楽関係者が賛辞を惜しまないのは当然だが、彼らには音楽的表現とそれ以上に世界に向けて発信したいひとつの熱い想いがある。

それは、母国語「韓国語」へのこだわりだ。今回のアルバム「BE」も全編、韓国語で謳いあげている。今年、大ヒットした「Dynamic」がなんとすべてを英語で歌った初の試みという、非英語圏のアーティストとしては異例のこだわりなのだ。それは世界の音楽産業のリーダーたるアメリカのミュージックシーンにおいてもエポックメーキングともいえるものだった。

 

ちょっと古い話で恐縮だが、わが日本の坂本九が初めてビルボードにランクインした「SUKIYAKI SONG」も、九ちゃんは汗水たらした徹夜の特訓で覚えた英語の歌詞を必死に歌いこなしていた。日本やアジアなどの非英語圏のアーティストは、やはり本場アメリカで勝負するには英語を覚えなくては・・・と思うのが、かつては当然だったのだ。その後も多くのアーティストがアメリカを目指したが、基本的な想いは変わらなかった。

最近は、ようやくネイティブに近い英語を話せて歌えるアーティストたちが増えてきた。しかし、多くのアーティストたちのアメリカの音楽シーンへの距離感はたいして変わっていない。

そんな中、あえて、英語も話せるが、母国語・韓国語にこだわる「BTS」が、アメリカ人の多くの若者に受け入れられている。アメリカ以外でも、いまや「BTS」のライブでは、ブラジルやインドネシアなど世界の国旗が振られまくっている。彼らが創った「小さな物語」が、国境や言語を超えて、大きく世界中に広がっているのだ。

英語圏やアメリカの文化に迎合せず、自分たちの素顔で勝負する「BTS」。

「BTS」のこだわりには、「Gパンの後ろポケットにウイスキーの小瓶を忍ばせてギターを弾くかっこよさ」を滲ませた、かつてのビートニクスのヒップスターたちの抵抗の歴史を、ひしひしと感じ取ることができる。

アジアという独自の文化圏で、アメリカ文化も十分吸収しながら、さらに新たな独自のビート感覚を研ぎ澄まして成長し、新たなポップカルチャーを創造している世代。そこには、もはやアメリカ文化への羨望もコンプレックスも微塵もない。

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そんな彼らを支える「ARMY」と飛ばれる熱烈なファンたち。彼らは、SNSを駆使しながら、自分たちのシンボルである「BTS」と一体化して、様々な価値観を共有している。ここでも、まさに「日本型スノビズム」がSNSという強力なツールに媒介されて、彼らの熱い想いを強力に繋いでいる。

そんな新たなエンターテイメントビジネスを展開する韓国K-POP業界のマーケティング手法。そこにも「アジアン・ニュー・ビートニクス」を象徴する現象はいくつも隠されている。

まさに、「BTS」こそが、「アジアン・ニュー・ビートニクス」の代表であり、彼らがムーブメントそのものとも言えるのだ。

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