【リアルビジネスファンタジー】『エッセンシャルマネージャー』VOL.2「社長室にて」

【リアルビジネスファンタジー】

「エッセンシャルマネージャー〜賢者カンジーに尋ねよ〜」

園田ばく著/大久保寛司監修

経営の本質って、何だろう?いい会社の本質って、何だろう?

これからの未来に悩む企業の経営者が、偶然、出逢った仙人のような賢者「カンジー」に連れられ、訪れた先の「天国に一番 ちかい会社」で驚きの体験をした後、自分のあり方を見つめ直し、企業を立て直していくリアルビジネスファンタジー。

【著者】

園田ばく

作家。「あり方研究室」主席研究員。企業の取締役として、「一般社団法人100年続く美しい会社プロジェクト」理事の顔も持つ。

【監修】

大久保寛司

「人と経営研究所」所長。「あり方研究室」室長。多くの経営者から師と仰がれ、延べ10万人以上の行動を変容させてきた伝説のマスター。著書に「あり方で生きる」など多数。

【実験的コミュニティ小説】

「エッセンシャルマネージャー」は、オンラインコミュニティから生まれる「コミュニティ小説」の実験プロジェクトです。コミュニティ内で生まれるエピソードや対話が、小説内に、オンタイムで組み込まれていきます。


〜どんな展開になっていくのか、まだ誰にもわからない。

それはコミュニティ内の化学反応と、リアルとファンタジーが融合した先に見えてくる。

令和の時代の「みんなで作る小説」=「エッセンシャルマネージャー」〜

collaborated with オンラインラボ「あり方研究室」

オンラインラボでは、こちらの小説がいち早く会員限定で、無料でお読みいただけます。

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【リアルビジネスファンタジー】『エッセンシャルマネージャー』PROLOGUE 「下駄を履け〜身口意を整える〜」

【リアルビジネスファンタジー】『エッセンシャルマネージャー』VOL.1「悪いことは重なるもの」

 

VOL.2■「社長室にて」

画像2

そんなある日、青島社長に突然呼び出された。またイライラの矛先を向けられるのかと、重い足取りで社長室のドアをノックする。

「社長、近藤です。はいります」

社長室に入ると、横広の革張り応接セットのソファーの中央に座って何やら神妙な顔つきで、ロダンの考える人のように顎に当てた左手を膝に乗せたまま考え込む青島の姿があった。銅像を思い出す。

青島は小柄だが、歩くのも、仕事も、昔からやたらと早い。喋り方も「で、結論は?」と会話ではなく、毎回要件だけといってもいいくらいだ。

そんな即断即決の青島が、いつもと違い考えあぐねている雰囲気に一瞬足が止まってしまった。しばらく躊躇して立ちすくんでいると、苦虫を潰したような顔で青島が顔を上げた。

「近藤か。なにを突っ立っている。そこに座れ」

「はい」

ぶっきらぼうな言葉使いは、わたしと二人きりになった時のいつもの青島の言葉遣いだが、今日はやけに歯切れが悪い。

「今日呼んだのは、確かめてきてほしいことがあるからだ」

そう言ったまま、青島が空中に目をやった。

そして、しばらくした後に口を切った。

「近藤、お前にある会社を見てきてほしい。表向きは企業視察だ。先日、朝の経営勉強会の時に話題に出た長野のイイナ食品に行って欲しい。イイナ食品では営業会議で、数字の話を一切しないというんだ。しかも、毎年新卒20人採用に数千人が応募するという、信じられない採用倍率がある会社だそうだ」

わたしは、眉毛をピクリと動かした。

そんな会社が実在するのか?!

なぜ知られていない?

「社長、お言葉ですがそんな会社が実在するとは初めて聞きました。上場はされている会社なのですか?」

「わたしも、最初は眉唾かと思ったが、業績も見せてもらった。80年間一度も業績が下がっていないデータだ。どんな会社も長期の業績だけは嘘をつけないことは、わたしが一番わかっている。そのうえで、あえて上場をしないという選択をした会社だそうだ。にわかには信じられん。だからこそ、君を呼んだ」

一気に話し出した青島の言葉に質問するタイミングもなく、ただその勢いに飲まれた。

しかも、いつもの青島らしくない。結論からではなく、やけに回りくどい感じに、わたしは戸惑いを隠せなかった。

「企業視察。つまり見学に、ということですよね。それはわかりました」

青島は、虚空を見つめて繰り返す。

「ああ、見学だ。見学を装って、キミにはその企業の秘密を探ってきて欲しい。あわよくば、内部の人しか知らない真実を探ってきてくれ。数字の目標がなく、増収増益なんて、そんな経営があるものか!なにか、隠された秘密があるに違いない。。。」

困惑する青島を久しぶりに見て、わたしはなぜだか胸が高鳴っていた。

わたしは昔から未知の世界に挑むときの青島の雰囲気に惹かれてここまできたのだ。

下駄を履いたおじさん

ガタンゴトン、ガタンゴトン。キイイイイイ。

時折レールを軋ませながら電車が走る。

翌週わたしは伊那市に行く特急電車に揺られていた。

社長室ではあのあと、「近藤。必ずなにか秘密があるはずだ。例えば、、、」と青島の持論を30分近く聞かされた。

わたしも100%青島の話を信じたわけではない。人事という仕事が人の話を疑り深くさせたのかもしれない。今までも、看板だけは立派で、実態がかけ離れた会社を山ほど見てきた(うちの会社だってそうだ)。だからなのか、良い評判だけを信じるほど天国体質ではいられないのだ。もちろん人に対しても疑り深い。面接で「会社に一生を捧げる」という位のことを言って、半年くらいで簡単に辞めていく人間を何度も見て来た。会社も人も、見た目と中身は違うのだと、何度も思い知らされている。

都心から長野行きの特急電車に揺られながら、わたしはボーっと窓からの景色を見ていた。青島の言葉を反芻して考えを巡らせていたからなのか、途中の駅で乗ってきた男性が、わたしの隣に座っていたことさえ気がつかなかった。ふいに話かけられた時もしばらく反応できなかった。

「お仕事ですか?わたしも、長野に出張なんですよ」

小綺麗な麻のシャツにチノパンに下駄。

白髪とは言わないがグレーヘアーに満面の笑みをたたえた年齢不詳のただのおじさんだった。

どうみても出張には見えない。

今までも、飛行機や新幹線で話しかけられたことは何度もあった。

人事という仕事柄だろうか。一通りの笑顔の作り方くらいはお手の物だ。

「出張といっても商談ではないんです。まあ、企業見学といいますか、社長のおつかいのようなものなので」

言葉を選び、なるべく情報が特定されないように話を合わせる。

このあたりも長年培ってきたものだ。

「そうですか。社長さんのおつかいとは、なかなか面白い表現ですね。わたしも昔はよく、勤めていた会社の社長のおつかいをしてました。一度は海外におつかいにもいきましたね」

そら来た。

こういう風に話す輩は、ここから自慢話がはじまると相場が決まっている。

いかにその時代を乗り切ったかの昔話と、昔はよかった系の時代錯誤の話が続くのだ。まあ、聞いてやるか。

わたしは満面の笑顔で答えた。

「へぇー、すごいですね。海外におつかいですか」

しばらく、自慢話がはじまるのを待ったが、下駄のおじさんは、ただニコニコとしているだけで、それ以上話を話してこようともしない。

(いったい、なんなんだ)

最近、口癖のようになっている、その言葉をぐぃっと飲み込むと、わたしもただ笑顔を返した。

(つづく)

㈱エッセンシャル出版は、「本質」を共に探求し、共に「創造」していく出版社です。本を真剣につくり続けて20年以上になります。読み捨てられるような本ではなく、なんとなく持ち続けて、何かあった時にふと思い出して、再度、手に取りたくなるような本を作っていきたいと思っています。

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