大久保:現実に、「ほとんど歩けるようにはならない」という方が、ある程度歩くようになられたというケースもあるんでしょうか?
谷野:「私の友人はまだ歩けてはいない」と申し上げたんですけれども、ただ、実際に歩けている方もたくさんいらっしゃいます。。
大久保:たくさんいらっしゃるんですか?
谷野:正確にカウントしているわけではないですけれども、ざっと100人以上はいらっしゃいます。
大久保:でもは、医学上では歩けるようにならない方たちなんでしょう?
谷野:「もう一生車いすです」と言われて退院された方たちで……
大久保:谷野さん、軽い感じで、「はい、歩けるようになった人がいます」と言うんだけど、ちょっと待って下さい!
歩けるようにはならない、だから、理学療法士でも脊髄損傷でダメになったところを鍛えるという発想がないし今も教えてない。
だけど、谷野さんのところでは、そういう人たちが歩けるようになっている。もう100人となると「例外」じゃないですよね。
教科書は、過去の知識・経験の集大成なんです。
でも、それがすべてわかった上で書かれているわけじゃなくて、ご承知のように医学の世界だってどんどん変わっていくわけです。
例えば、昔は、ちょっと傷ついて、膿が出てきたら、それをどんどんきれいに取っていました……。今は「あれが大事なんだから」といって、それを被せると。まったく治療法も違うわけですよね。あの膿みたいに出てくるものが皮膚を作っていくんだということになっています。過去の医療の常識、知識、アプローチというのは、間違っていたということです。
ですから、現在ベストだ、正しいと思われていることでさえ、5年経って10年経ったら、「あんな愚かなことをしてたんだ」ということを、今もやっているかもしれないですよね。
谷野:脊髄損傷だけ考えても、私がこの仕事を始めた当初は、ご本人さんは「諦めずに歩きたい」とやっぱり言われるんですが、その際、お医者さんは「無理ですよ」ということを言われる方たちばかりだったんですけれども、今は、たとえば、「私たちのような場所があるよ」と言ってくださるようになってきました。
実際、医学の常識って、脊損に関しては、変わり始めているんですね。
大久保:たぶんドクターたちも、「いや、もう歩けるようになりません」と言うのは、「もう無理だから、下手に期待をさせないほうがいい」という思いやりから来ているんでしょうね。
「歩けるようにならない」のだから、「しょうがないんだ」と納得させないと、「相手の人生がかわいそうだ」というところから来ていたんでしょう。
谷野:実際、私もまずは本当にバックグラウンドがありませんでしたから、歩きたい人に対して、歩かせるっていうことで、歩行、機能回復ということを追い続けてきたんです。
最初は「それでいいや!」というところで、支援できたらと思ったんですけど、やはり……まだ歩かせられていない人もいるわけですね。
そう考えた時に、自分たちだけではなくて、個々の強みを持った人、企業とかとも手を組んで、やらなければっていうところで、今は、いわゆる医療の分野の方とか再生治療とかロボティクスとか、そういう関係の方とタッグを組んで、新しいメソッドといいますか、プロトコールというものを作っている最中でもあります。
大久保:それは素晴らしいですね!やっぱり、それぞれの領域でいわゆる特技というか、能力を持った人たちや組織があるわけですから、その人たちをどれだけ一つの器に入れて、皆で助け合うということができれば、たぶん、クライアントさんたちにもより支援の内容を濃くできるという感じがしますよね。
谷野:僕の中では、全員の脊髄損傷者を歩かせてこそっていうところがやっぱりありますし、原点となる青年をどうしても歩かせたいっていうのが、原点にあります。
大久保:谷野さん自身が活動されていて、最初に歩けなかった人が歩けるようになった時のシーンって、覚えておられます?
谷野:そうですね。今でも……出なかった足が、一歩前に出る瞬間というんのは、これはもう一人ひとり覚えていますね。
大久保:覚えていますか!
谷野:はい。その瞬間のご本人さんもそうですけど、ご家族も一緒にトレーニングを見ていらっしゃるんですが、ご家族の表情も、いつも印象的なんです。その瞬間が僕はやめられないですね。
0が1になった瞬間。そこからまた、1が10というプロセスもあるんですけど、0が1になる、この瞬間に……やりがいを感じています。
(つづく)
谷野さんとの対談は後編に続きます。
✴︎「あり方研究室」は、音声でも配信しています。
大久保寛司(おおくぼかんじ)
「人と経営研究所」所長
日本IBMにてCS担当部長として、お客様重視の仕組み作りと意識改革を行う。退職後、「人と経営研究所」を設立し、20年間にわたり、人と経営のあるべき姿を探求し続けている。「経営の本質」「会社の本質」「リーダーの本質」をテーマにした講演・セミナーは、参加する人の意識を大きく変えると評判を呼び、全国からの依頼が多数寄せられ、延べ10万人以上の人々の心を動かしてきた。
特に、大企業・中小企業の幹部対象のリーダーシップ研修、全国各地で定期的に開催されている勉強会では、行動変容を起こす人が続出している。
著書に、『考えてみる』『月曜日の朝からやるきになる働き方』『人と企業の真の価値を高めるヒント』など多数。
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