政府が「モデル就業規則」を、「労働者は、勤務時間外に置いて、他の会社等の業務に従事することができる」と改変し「複業元年」となった2018年。
それに先駆けて「複業」を始め、いま、「複業のエバンジェリスト」として活躍する中村龍太さんという人がいます。
中村龍太・講師プロフィール▷コチラ
龍太さんが複業の先駆者のひとりとなった経緯は、「子どもの教育費」のために、サイボウズとダンクソフト2社への同時転職を余儀なくされたことがきっかけでした。
収入が目的の成り行きの複業でしたが、しかし、この「2社かけもちの複業」は、それぞれの仕事が関連して、自分のスキルやあり方に相乗効果をもたらしていることに気づきます。
これをきっかけに、「副業」ならぬ「龍太流複業」が生まれました。
龍太流複業とは
「副業」と「複業」には違いがあります。「副業」は、収入のために行うもので、本業に対してあくまで従(副)の位置にあります。
一方で、「龍太流複業」は、収入のためだけでなく、「自己実現を目指す」ために行い、本業をいくつも持つことを言います。
そして「龍太流複業」は、お金だけでなく、「安心感」「貢献感」「幸福感」を得るための働き方で、「誰にでもできる」という点に特徴があります。
例え会社が複業禁止でも可能で、具体的には、
・金融資産(お金)…自由に利用できる、現金、貯金、不動産などの財産
・人的資本(スキル)…労働者が有する生産に有用な、労働、知識、技能などの能力
・社会資本(つながり)…人と人との信頼関係(友人、知人、人脈など)
これらを元手に資本・資産を再生産していくものです。
龍太さん自身、いまでは会社での就業のほかに
・奥さんの実家での農業
・趣味で始めたドローンで撮影の仕事
・好きなパエリア料理の作り方を教える仕事
などの多様な仕事をしています。
龍太流複業を始めた人たちの事例
「龍太さんの複業は、龍太さんだからできるもの」ではありません。龍太さんの話を聞いて「複業」を始めた人たちの事例をご紹介します。龍太さんは、「それぞれ、ユニークな形で自分らしいポートフォリオを組んでいる。」と、これから複業を考える人の参考になれば、としています。
複業NGの企業でもできる複業のカタチ
人と一緒に仕事をし、さまざまな経験を積むことが好きなMさん。大手広告代理店に就職します。まずここで、基本的なビジネスマナーや広告業全般などの「人的資本」(スキル)を得ます。その後、ビジネススクールに通い視野を広げ、ある「新しい働き方の祭典」でボランティアを始めます。
そして、貯金によって「金融資産」が形成されると、在籍している大手広告代理店の先輩社員が起業した会社をクライアントのひとつとし、フリーランスに転向。最初の会社で得た「社会資本」(つながり)と「金融資産」が元手です。しかし、フリーランスでの仕事では、好きな「人と接する機会」が減ったため、その先輩社員の会社に就職して正社員になります。
フリーランスとのパラレルワークの選択です。
そしてここでは、主に「プロの応用スキル」という「人的資本」(スキル)を得ています。
龍太さんがこの話を聞いた時点では、Mさんは、フリーランスの仕事より、この正社員としての仕事に比重を置いていました。それは、ある人的資本を育むことを意識しての戦略的な比重の掛け方です。
龍太さんは、「パラレルを選べる環境を残して、パラレルからシリアルへの転換」をしているMさんを「時に複業、時に専業。
これも複業のメリット」として、複業のいいモデルのひとつとしています。
正社員がイヤ!自分の希望に適った働き方のできる派遣社員へ
絵を描くことが好きで、デザイン・クリエイティブ関係の会社に正社員として働いていたMさん。長く働くことで雑用が増え、「良い成果物」を出すことに専念できないことに納得がいかず、正社員をやめ、派遣社員となります。派遣では、雑用はありません。派遣先によって「デザインでこだわりを置くところが違う」ため、様々なテクニックを学ぶ、つまり「人的資本」(スキル)を得ることができることにも、重きを置いた結果の選択でした。
また、派遣社員としての仕事のほかに、ネットのサービスを利用したデザイン・クリエイティブ関係「業務委託」を開始。派遣で減った収入の足しにするという目的のほかに、派遣社員としての仕事では叶わない、「成果物を自分の作品とする」ことによる「社会資本」「金融資産」の形成を目指しての選択です。
龍太さんがこの話を聞いた時点では、業務委託での作品はまだ売れていなかったものの、「人的資本を社会資本や金融資産に変換する活動に素直に感動した」とのことです。
夫婦で田舎で暮らしたい!移住に向けて邁進中
山が好き、趣味のカメラ撮影をもっとしたい、満員電車や人ごみが好きではない…「田舎の生活」に憧れるSさん夫婦は、東京での会社勤めを辞め、地方に移住することを決めます。
その後、その下準備として、旦那さんは東京から地方へ出張する際、地元の人たちと積極的に話をして、本業の資源をうまく使いながら、その地域の情報や知識を得るという形で「人的資本」(スキル)を再生産していきます。
一方、奥さんは移住イベントに出向いたり、旦那さんと地方に出向いたりしますが、なかなか先には進みません。そこで、「お試しで地方に暮らす」ことを決意。今まで貯めた「金融資産」を元手に、地方の新しい体験という「人的資本」(スキル)を手に入れることにしたのです。
このご夫婦への龍太さんのアドバイスは、「夫婦で共稼ぎしている場合、夫と妻の別々で資本・資産を見るのではなく、世帯の資本・資産でみると良い」ということと、「地方にいけば、今の金融資産は、何もしなくても資産価値があがる」ことの2つ。
今後のSさんご夫婦が楽しみとのことでした。
これらの体験を含む事例や、自分だけの年代別・ポートフォリオの組み方は、中村龍太さんが2020年に執筆した『多様な自分を生きる働き方 ー誰にでもできる複業のカタチー』にまとめられています。
中村龍太
1964年広島県生まれ。日本大学卒業後、1986年に日本電気入社。
1997年マイクロソフトに転職し、Office365などいくつもの新規事業の立ち上げに従事。
2013年、サイボウズとダンクソフトに同時に転職、複業を開始。
さらに、2015年にはNKアグリの提携社員として就農。現在は、サイボウズ、NKアグリ、コラボワークスのポートフォリオワーカー。
2016年「働き方改革に関する総理と現場との意見交換会」で副業の実態を説明した複業のエバンジェリストとして活躍中。
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