【間法物語】
日本語人が古来より持っている「魔法」がある。 それは「間法」。「間」の中にあるチカラを扱えるようになった時、「未知なる世界」の扉が開かれ、「未知」は、いつしか「道」となって導かれていく。
「間法使いへの道」を歩き始める僕の物語。
【PROFILE】
イエオカズキ 「間」と「日本語」の世界を探求し続けるストーリーエディター。エッセンシャル出版社価値創造部員。
小説【間法物語】9 意味のある道
これまでの「間法物語」はこちら↓
間法物語10
ヒミツのヒミツ
ヒミツの秘密を教えてあげよう。
それは、ヒ・ミ・ツです。
などと遊んでいる場合ではなくて、本当に、ヒミツなのだ。
つまり、『火』と「水」をつなぐこと、それが、バランスジェネレーターであるために必要な世界の秘密なのだ。
「火ってさ、目には見えるけど、手でつかもうと思っても、つかめないじゃない?」
サッチャンが、唐突に、話しかけてくる。そんなことは滅多にない。
普段は、サトルから話しかけない限り、サッチャンは、沈黙をずっと保っているからだ。
「まあね、だって、熱いじゃない。つかんだりしたら。」
「火は、あるけどない、ないけどある・・・みたいな、ココロのようなものだと思うんだ。」
「ココロねえ。心臓とか、脳とは違うわけ?」
「頭で考えるとき、何か想像したり、創造したりするよね。そのイメージ。今日は、何食べようかな?とか、昨日あんなこと話したけど、大丈夫だったかなあ?とか。イメージって、後から後から湧いてくるじゃない。」
「ハートに火をつけて。僕の中に燃え続けるひとすじの希望の光。詩的な感じで言うと、こういうことね。」
サトルの詩的なセンスとは、所詮この程度のもので、かなりサムイのだ。
「実際、見たり触ったりするものではなく、内側であふれ出してくる感情のようなエネルギー。目には見えないけど、内側には確かにあるもの、それが『火』。」
「ふんふん、なるほど。」
「火は、『ヒ』ダリ。時計の逆周り。外側で感じる時間とは、逆の時間の流れを生み出している左パワーの象徴でもあるんだ。」
「逆の時間の流れ?それって、『モモ』に書いてあるような、ゆっくりと後ろ歩きするみたいなこと?」
サトルは、読書家だったから、エンデやルグウィンのようなファンタジーには、それなりにハマッテいた時もあって、『モモ』なんかも、一応、そのレパートリーに入っていた。
「ココロの中では、時間って自由自在でしょ。昨日に戻ったり、何年も前の昔の出来事に戻ったり。直線に進む時間に対して、もっと違う時間のベクトルが、内側には流れているんだよ。」
「決定している時間と、逆の流れは、決定していない時間ということか。」 サッチャンは、基本的に、相槌は打たない。サッチャンは、サトルという僕であり、サトルは、サッチャンなのだから。サッチャンにとって、すべては、当たり前のことでしかない。
「水はね、『ミ』ギ。時計回りの、外側に流れている時間ということだよ。『ミ』って、身体のこと。『ミ』って、身でしょ。人間の身体の70パーセント以上は、水なんだ。」
サトルは、ちょっとビールを飲むことにした。
サッチャンとの会話が始まると、どんどんインスピレーションが膨らんで、ワクワクすると同時に、あまりの情報量が、サトルの頭の中に降り注いできて、ちょっと一息つきたくなることもあったのだ。なんて実は、サッチャンのチューニングに自分のアンテナをピッタリ合わせていくのが、少し怖かったので、一息つくという理由で、それを巧みにごまかしていただけだった。
「地球の70パーセント以上も、水なんだ。水は、全てを融合させてくれる。すべてのイノチをひとつにつなげている存在、それが水なんだ。 だけど、この火と水は、相性が対称的な対象だから、火と水がつながろうとすると、火が水を飲み込んでしまうか、水が火を消してしまうか、結ぼうとした瞬間に、対立する場所を生み出してしまう。人間の体で言えば、思いつめて、火が強くなってくると、体内の水分が足りなくなって、便秘になったり、胃に穴が空いたりするんだ。体内火傷みたいな感じ。逆に、何でも水に流しまくっていると、体内の火という意欲が枯れて、下痢になったり、体が腫れたり膨らんだりするんだ。こっちは、体内水害現象。」
今日のサッチャンはかなり雄弁だ。サトルに何か伝えたいメッセージがあるのだろう。
「火と水のバランスをとるもの、人間の心と体のバランスを生み出すもの、それが鉄なんだ。地球の中心にあるのは、相当に固い巨大な鉄の塊。人間の構造を作り出しているのも、鉄分からなる骨だし、人間の血液の中にも、鉄分が含まれている。人間とは、鉄筋建築物ならぬ、骨筋建造物なんだよ。 火と水をそのまま掛け合わせないで、鉄釜とか鉄鍋に水を入れて、火を炊けば、水は沸騰して水蒸気となって、天に舞い上がるだろう。雲となった水が、今度は、雨となって地に降り注ぐ。鉄のバランスで、火と水のハタラキが働き出し、天地を循環するんだ。」
火は、世界を分解し続ける。水は、世界を融合し続ける。
鉄は、火と水を循環し続ける。鉄の意志を持って、火と水の世界を循環させていく。
それが、『間法』使いであるバランスジェネレーターのミッションなのだ。 だから、バランスジェネレーターのテツガクとは、『鉄学』のことを指す。
「どうして、そんなに素晴らしく完璧なシステムが、自然には存在しているのに、世界はこんなにも疲れ、『魔城』のシステムに支配されているの?」 「それもまた、鉄のハタラキなんだ。鉄は、すべての中心にあり続ける、意志を持った、要の石だ。鉄は、とても繊細な鉱物だから、しっかり固めて育てていかないと、火と水の両方に取り込まれてしまう。火に寄れば、粒鉄となって、ものすごい勢いで燃え上がるし、水に寄れば、錆鉄となって、水に溶けてしまうか、水に錆びてしまうんだ。鉄という『イシ』のハタラキを発動させるには、ヒミツがあるんだよ。」
「そのヒミツを教えてよ。」
秘密の核心に近づいてきて、サトルは、少しドキドキしてきた。
「秘密には、『蜜』が、『三つ』ある。光に満つる三つの蜜・・・それがヒミツだ。火と水と鉄・・・この三つのハタラキを使って、バランスジェネレーターは、ハタラク。だけど、『秘密』は、だれかに教えてもらった瞬間、『非蜜』になってしまう。それが、秘密のシステムだ。だから、残念ながら、サトルに教えることは出来ない。というより、サトルが秘密を知りたいのなら、決して、誰も教えることは出来ないんだ。秘密とは、自分でつかんだときに、光り輝くことが出来る、『日光』なんだよ。」
秘密には、シンプルなシステムが存在する。
それは、誰かにもらってはいけないということだ。
手に入るのではなく、手に入れるのだ。
世界の秘密は、自らつかみにいかなくてはいけない。
サトルは、サッチャンの言っている意味が、よくわかった。
本当にそうなのだ。
「わかっているよ。僕は、バランスジェネレーターになるのだから。 その秘密は、僕が、自分で手にするべきものだよね。」
サトルの意志が固まった。 バランスジェネレーターになるための旅が近づいてきていた。
(つづく)