【間法物語】
日本語人が古来より持っている「魔法」がある。 それは「間法」。
「間」の中にあるチカラを扱えるようになった時、「未知なる世界」の扉が開かれ、「未知」は、いつしか「道」となって導かれていく。
「間法使いへの道」を歩き始める僕の物語。
【PROFILE】
イエオカズキ 「間」と「日本語」の世界を探求し続けるストーリーエディター。エッセンシャル出版社価値創造部員。
▽小説【間法物語】11 大人になる旅
これまでの「間法物語」はこちら↓
間法物語12
アンコードとエンコード
「多分、これだよね。これは、僕がバランスジェネレーターになるための旅の合図だよね。」
「サトルがそういうなら、そうなんじゃない。」
珍しく、サッチャンは、曖昧な返事を返してきた。
「え、違うの?これじゃないのかな?」
「サトルがそう思うんなら、違うんじゃない。」
相変わらず、サッチャンは、煮え切らない弱々しいトーンだ。
「どっちなんだよ?これは、僕にとって、かなり、重要な決断なんだからさ。」
「さあねえ。」
「とにかく、僕は旅に出る。」
サトルは強く言い放った。
その時、未知は、道となって開けた。
いつも、魔城は存在していた。だけど、その道の入口は決して見つからなかった。
魔城からの道はあるはずなのに、どんなに歩いても、決して魔城にはたどり着けなかった。
魔城への道は、複雑な迷路になっていた。
迷路ではなく、命路を探すこと。命路こそが、魔城への道なのだ。
命路は迷路の死角にある。
唯一どうしても見つからないところ、サトルがつかんだ死角とは、まさに『視覚』の『死角』だった。
視覚の死角へ進んでいくには、どうしたらいいか?
しっかりと前を見据えながら、ゆっくりと後ずさりすればいい。
そこには、どんなに探しても見つからなかった、魔城への道が、確かにあった。
サトルは、ずっと、道は前にあると思っていた。これだけ、世界中を魔城が囲っているのだから、世界を旅して、見渡せば、道は見つかると思っていた。
ピエロが言っていたことを、サトルは思い出した。
ミライは後ろにあるんです。
後ろの道とは、今まで自分の歩いてきた道だった。
サトルは、今まで、視覚を頼りに、自分の道を歩いてきた。
今度は、視覚を頼りにするのではなく、感覚を頼りに歩いていくのだ。
今まで自分の歩いてきた道を、感覚をアンテナに歩きなおすとき、未知の世界は、道となって、魔城へとつながっている。
「サトルが死角を見つけたから、資格を与えたんだ。」
「与えたって?サッチャンが与えてくれたの?」
「そうだよ。もう、サトルには、準備が出来たと思ったからね。」
「ひどいなあ。僕はずっと、この道を探していたのは知っている癖に。」
「サトルが許可を出さない限り、それは出来ない。それがアンコードだからね。」
バランスジェネレーターになるための資格を手にしたものは、皆、必ず、「A/Nコード」を学ぶ。
魔城には、様々なコード化がされていて、それが蜘蛛の巣のように四方八方を網羅して、多様なコード曼荼羅を形成している。このコード曼荼羅は、エンコードというルールになり、暗号「L/R」の刻印がシッカリと押され、ありとあらゆる外国語に翻訳され、どんなコトバでも使用することが可能になっている。
そのエンコードの裏側に、秘密の暗号「A/Nコード」は隠されている。
そもそも、この『アンコード』は、エンコードよりも古くから存在し、エンコードを次元上昇させるために、当初は、インプットされていたものらしい。
アンコードは、エンコードを解除するためには不可欠の『魔法のコトバ』として、バランスジェネレー ターに、長い間、伝わってきたものだった。
安全を安心に変えるから、アンコードという説もあるし、「あ、い、う」から「ん」まで全てをふくみ、あうんの呼吸を感じられるから、アンコードなのだという人もいて、そのあたりは、諸説あるようだ。
「サトルは、まず、アンコードの何を学ぶ?」
アンコードは、膨大な知恵の宝庫であり、成長し続ける暗号コードであるため、一気に学ぼうというのは、土台無理な話だと、サッチャンは言うのだった。
「魔城のシステムに入り込んで、システムを循環させるためのアンコードを学びたい。」
サトルは、まだ、アンコードのことはよくわからなかったが、アンコードを手にすれば、すごい可能性が開けることは信じていた。
「そんなの全く問題外。無理。それって、サッカーをはじめたばかりで、夢はプロサッカー選手というのだって、かなりピントがずれてはいるけど、それどころか、いきなり、イタリアのトップサッカーリーグ、セリエAに入って大活躍しますって、言っているようなものだよ。サーフボードを買って、これからサーフィンに行くぞって時に、いきなり、練習もなしに、ハワイのノースショアの大波に挑むぞっていう人のこと、巷ではなんていうか知ってる?オオマチガイのマヌケっていうの。『間』が大きく違っているから、オオマチガイ。『間』が抜けてるから、マヌケ。」
あまりにも、コテンパンに言われてしまうサトルであったが、そのときはまだ、アンコードの世界の大きさを図ることが出来なかったのだ。
「ぶっちゃけさ、やってみるしかないかなあ。とにかく、ピンと来たところで。アンコードは、学ぶ前に、まずやってみなけりゃ、学べないってことだと思うんだ。全くもって、五里霧中って感じだし。」
サトルが、本音を語り始めると、サッチャンは、必ず、それを受け入れてくれる。本当の音が鳴るとき、サトルとサッチャンはお互いが共鳴して、あまり、見分けがつかなくなる。
「なかなか、いい線いってるね。そういうことだよ。道は、未知だから、常に霧の中なの。『霧中』の中にいると、『夢中』になったり、『無中』の状態に近くなるの。未知を既知にすること。道を基地にすること。道が基地になれば、歩いている途中で休むことも出来るし、何といっても、道すがらを遊ぶことが出来るから。」
サトルは、道を歩き始めた。
ゆっくりと前を見据えながら、手と背中をセンサーにして、後ろを感じながら、自分の歩いてきたこの道を。
夢中になって、道を進みはじめたサトルは、すぐに、ミライとミイラの分かれ道にたどり着くことができた。その分かれ道には、大きな壁があって、その先のミライとミイラは、全く区別がつかないようになっていた。
どっちの道を選んでいいか、わからなくなった。
もっとハッキリと、シッカリと、思考し、見定められれば、わかるはずだ・・・ サトルは、必死に考え始めた。
「ダメだな。おまえの名前は、一体、何て言うんだよ?」
サッチャンの声が聞こえた気がして、思わず、サトルは後ろを振り返った。
振り返った先には、果てしなく深く黒い霧が立ち込め、今までセンサーで感じていた壁をつつんでいた。
(つづく)