【リアルビジネスファンタジー】
「エッセンシャルマネージャー〜賢者カンジーに尋ねよ〜」
園田ばく著/大久保寛司監修
経営の本質って、何だろう?いい会社の本質って、何だろう?
これからの未来に悩む企業のダメ経営者が、偶然、出逢った仙人のような賢者「カンジー」に連れられ、訪れた先の「天国に一番 ちかい会社」で驚きの体験をした後、自分のあり方を見つめ直し、企業を立て直していくリアルビジネスファンタジー。
【著者】
園田ばく
作家。「あり方研究室」主席研究員。企業の取締役として、「一般社団法人100年続く美しい会社プロジェクト」理事の顔も持つ。
【監修】
大久保寛司
「人と経営研究所」所長。「あり方研究室」室長。多くの経営者から師と仰がれ、延べ10万人以上の行動を変容させてきた伝説のマスター。著書に「あり方で生きる」など多数。
【実験的コミュニティ小説】
「エッセンシャルマネージャー」は、オンラインコミュニティから生まれる「コミュニティ小説」の実験プロジェクトです。コミュニティ内で生まれるエピソードや対話が、小説内に、オンタイムで組み込まれていきます。〜どんな展開になっていくのか、まだ誰にもわからない。
それはコミュニティ内の化学反応と、リアルとファンタジーが融合した先に見えてくる。
令和の時代の「みんなで作る小説」=「エッセンシャルマネージャー」〜
collaborated with オンラインラボ「あり方研究室」
オンラインラボでは、こちらの小説がいち早く会員限定で、無料でお読みいただけます。
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プロローグ■「下駄を履け 〜身口意を整える〜」
「下駄を履きなさい」
「はあ?」
いきなり何を言い出すのかと思えば、下駄を履けと。
わたしが質問したのは、「どのように部下とコミュニケーションを取ればいいのですか?」というビジネスの質問だった。
その回答が、下駄である。
カンジーは、しばらく微笑んだ後に、こんな風に話し出した。
「身口意(しんくい)を整える。という言葉は知っているかな。身体と、口に出すこと、意識することを一つにすること。例えば、仏教の護摩焚きの行事も、行為として火にくべること。読経としての口に出すこと。意識としての念ずる思い。このどれもが、整ってはじめて、祈りは届くということだ」
わたしは、今まで聞いたことのなかった「身口意を整える」という具体的な話に頷きながら聞き入った。
しばらく間があった後に、カンジーはさらにこう言った。
「だから。下駄を履きなさい」
その日は、それ以上、なにもなかった。
ただカンジーはニコニコとしているだけなのだ。
しかし、自分から頼んでおいて、いまさら「それは出来ません」とも言えない。何もかもわからないことだらけだが、家に帰ると、週末を待って下駄を買いに行った。近所にアイオンという大きなショッピングモールがあった。そこに和服を扱っているお店を見つけて、早速出向いてみた。
店のはじに、いくつか草履と下駄が並べられている。
気さくな店主が、話しかけてきた。
「お着物ですか?浴衣ですか?」
実はどちらでもないのだが、着物に関する知識はまるでないので、「浴衣で」と目をそらしながら答えておいた。
店主は、怪訝な顔など少しも感じさせない笑顔で「では、今お手に持たれているものがシンプルでよいと思いますよ。裏にはゴムが張られているので、すべりどめにもなりますし」そう言われるがままに、わたしは下駄を買っていた。数千円の出費を覚悟していたのだが、意外と下駄は高くなかった。
家に帰ると、さっそく靴下を脱ぎ下駄を履いてみた。ひんやりとした感じが足の裏に伝わる。なんだか重心が固定されるような感じがした。家の周りを少し歩いてみたが、おおまたでは歩けない。そして、疲れる。
翌日は、下駄を履いて近所を散歩してみることにした。特に行く当てもないので、近くの喫茶店まで下駄で歩いた。
「ふむ。自然に姿勢がよくなるな。というか、靴では体重の移動を意識したことがなかったな」
右足の次に左足。左足の次の右足。意識して足を一歩一歩進める。
小さな坂道でも上向きになると足の親指に力を入れないと、自然にかかとの方に足がずれてくる。慣れればなんてことはないのだが、坂道はまだ難しい。慎重に歩いていたからか。小さな歩幅とカラコロというリズムが瞑想状態を引き起こし、呼吸が深くなっていく。
喫茶店につく頃には、いつも脳裏を離れなかった部下の表情が薄れていった。下駄のまま喫茶店に入ると、木でできた床にカツーンと下駄の音が響いた。
店内にいた女性のお客とこのお店の主人が、同時にわたしを振り返った。
なにも言われはしなかったが、恥ずかしさで、逆に堂々とした振る舞いをするしかなかった。先ほどのリラックスした気持ちも瞬間に冷水を浴びたようになり、コーヒーを味わうのもそこそこにして、わたしはさっさと喫茶店を後にした。
今日はもうこのくらいにしよう。
いったいなんなんだ。
部下とのコミュニケーションを下駄を履いてやれってことか?
今日のように部下に笑われれば、なにかが改善するというのか。
半分怒りを覚えながら、家に帰りつくと、汗ばんだ足の裏をすぐに洗いたくなって、足だけシャワーを浴びにお風呂場へ向かった。シャワーのお湯を足に当てる。流れていく水はわたしの何かを洗い流していくようだった。
足の裏と胸の奥が熱くなる!?
ある日、いつものように部下とミーティングが終わり、会社の一階にある自動販売機に飲み物を買いにいった。
「あれ。部長、お茶ですか?いつもの缶コーヒーじゃなくて?」
「ああ、なんだかね。最近になって和の良さがわかったような気がするんだよ」
自分でも気がつかない内に、コーヒーではなくお茶を選んでいた。
これも下駄を履くようになって、和を意識しはじめたからか?と半分冗談のように思って、一人で笑っていると
「部長。なんか変わりましたよね。なんというか、落ち着いたというか、おだやかになったというか」
「 そ、そうかい?」
自分でも最近、部下にイライラしなくなったのは気がついていたが、いつもイライラさせてくれた当の本人から、の言葉に戸惑いを隠せなかった。
「いろいろね。地に足をつけるようにしたからかな」
そう言ってみて、自分の言葉に驚いた。部下とのコミュニケーションなんて、常に半分は相手のせいだと思っていたからだ。しかし、イライラしていたのは自分だったのか。地に足がつくというのは、比喩表現ではなく、本当のことだったのか?
そう気がついたら、なぜだか足の裏と胸の奥が熱くなった。
「部長どうしました?わたしに褒められたのがそんなに嬉しかったですか? 最近の部長はいい感じだと思っていたんですよ。言いませんでしたけど」
こいつは、話し方が上から目線なのだ。しかし、わたしをイライラさせたその口調が不思議と今日はイライラしない。それよりも、こいつの仕草に目が行く。
こいつは、こんなに愛嬌があったのか?
「片山くんの、言葉にはいつも学ばされるよ。愛嬌キャラだから、憎めないのかな」
「あ、部長。ようやく気がついてくれました?」
そう言って、片山はエクボを作る。
「じゃあ。わたしも部長に習ってお茶にします。よろしければ、ついでにおごって頂けますとありがたいのですが?」
そう言うと、片山は笑いながら両手を、わたしの前に差し出した。
「(なにっ!!)まあ、お茶くらいおごるよ。キミには敵わないなあ」
(つづく)