【リアルビジネスファンタジー】
「エッセンシャルマネージャー〜賢者カンジーに尋ねよ〜」
園田ばく著/大久保寛司監修
経営の本質って、何だろう?いい会社の本質って、何だろう?
これからの未来に悩む企業のダメ経営者が、偶然、出逢った仙人のような賢者「カンジー」に連れられ、訪れた先の「天国に一番 ちかい会社」で驚きの体験をした後、自分のあり方を見つめ直し、企業を立て直していくリアルビジネスファンタジー。
【著者】
園田ばく
作家。「あり方研究室」主席研究員。企業の取締役として、「一般社団法人100年続く美しい会社プロジェクト」理事の顔も持つ。
【監修】
大久保寛司
「人と経営研究所」所長。「あり方研究室」室長。多くの経営者から師と仰がれ、延べ10万人以上の行動を変容させてきた伝説のマスター。著書に「あり方で生きる」など多数。
【実験的コミュニティ小説】
「エッセンシャルマネージャー」は、オンラインコミュニティから生まれる「コミュニティ小説」の実験プロジェクトです。コミュニティ内で生まれるエピソードや対話が、小説内に、オンタイムで組み込まれていきます。〜どんな展開になっていくのか、まだ誰にもわからない。
それはコミュニティ内の化学反応と、リアルとファンタジーが融合した先に見えてくる。
令和の時代の「みんなで作る小説」=「エッセンシャルマネージャー」〜
collaborated with オンラインラボ「あり方研究室」
オンラインラボでは、こちらの小説がいち早く会員限定で、無料でお読みいただけます。
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▽【リアルビジネスファンタジー】『エッセンシャルマネージャー』PROLOGUE
「下駄を履け〜身口意を整える〜」
VOL.1■「悪いことは重なるもの」
今日の会議室はいつもに増してねっとりとした重い空気に満ちていた。
システム開発会社であるわが社は、都内の立地の良いオフィスビルの2フロアを借り切っていた。全館冷房は隅々まで効いているはずだが、なぜだか会議室はいつも蒸し暑い。
静まり返った会議室に、わたしを含めた幹部マネージャーが円卓に丸くなって座っている。窓際のいつもの席に座っているのが、社長の青島だ。
華奢な身体に似合わない、張りあげるような声と、理路整然とした知将のような雰囲気をいつもまとっている。
わたしは、意を決して報告を始めた。
「青島社長。ご報告があります。実は二課の長嶺係長から辞表を出したいと申し入れがありました」
わたしは努めて表情を変えずに事実だけを述べた。
青島に下手な言い訳は禁物なのだ。
「またか!今月に入って二人目だぞ。しかも敏腕の長嶺が、辞任だと!? どうなっているんだ。なにか事件でもあったのか!」
「いえ。二課の複数メンバーにヒアリングしましたが、特に事件らしい事件はなかったようです。売上目標も達成しているし、メンバーも驚いていると」
「では、なぜなんだ!とにかく毎月のように人が辞めていく原因を早く探って、対処策を考えろ!!それに対処するのも人事総務部長の君の役目だ。いったい現場で何が起こっているんだ」
シーンと静まった会議室。
役員以外は部長、次長のみの経営会議という名前の数字発表会だ。
「まあ、いい。次、清水部長。開発部の開発状況はどうなっている?」
机の上の書類を右手の人差し指でトントン叩きながら、青島社長が報告を求める。
「はい。進捗率は30%です。このまま行くと、ローンチは一か月以上遅れる予定です」
「はあ?先月から5%しか進捗率が上がってないじゃないか。この一か月、何をしていたんだ?」
「それが、、、客先の仕様変更が重なりまして、先週末、開発部員総出でやり直しをしたのですが、週をあけたら再度、仕様の変更があり、、、」
清水部長はふうふうと肩で息を吐き、いつもの白いハンカチで顔を拭きながら答えた。
「おい、清水。仕様の変更なんか織り込み済みでスタートしたんだろ。何故週末総出でやりなおしになるんだ」
「はい。大変申し上げにくいのですが、営業部との行き違いがありまして、お客様の要望が二転三転と変わりまして、、、」
青島社長の机を叩く指が、人差し指と中指の二本に増えた。トントンというリズムがトントントントンとせわしなくなる。相当イライラしている証拠だ。
「もういい。田中営業部長、どうなっているんだ。お客様に嘘の仕様を話したというのか?」
体育会出身の田中営業部長はビクッとすると、大きな身体をゆすりながら答えた。
「いえ、お客様にはしっかり仕様説明はしました。しかし元々の仕様説明書にミスがありました」
「清水。営業の田中は開発部の仕様説明書のミスだと言っているが、どうなんだ!」
青島はエキサイトしてくると、すぐに人を呼び捨てにする。何度も裏で、わたしが注意をしているのだが、なかなか治らない。そして、少し気の弱そうな清水開発部長は、さらに小さくかしこまってハンカチで何度も額と頬を拭いた。
「はい。確かに表記のミスはあったのですが、そこは今までもあった部分で、何年も営業部の方でしっかり説明をしてくれていた所でしたが、、、」
「田中!いままで説明できていたことが、なんで急にできなくなったんだ!これは営業部の責任問題だろう!」
青島社長の右の拳がついにワナワナと握りしめられる。
田中営業部長は、潔く頭を下げた。
「申し訳ありません。実は今年に入ってからのメンバーの急な辞職に加えて休職もあり、人の入れ替えが三名続きました。その時に仕様書説明の引き継ぎがされていなかったようです。欠員の穴を埋めるための対応に追われてしまったのが原因と思われます」
「また、人か!おい近藤、こんな大変な時期に、なにをやっているんだ! お前は会社を潰す気か!」
会社の離職率に歯止めがかからない。
社長から矢継ぎ早に戦略を打てといわれるが、売上至上主義から始まったベンチャー気質の我が社の社風のなかで、売上以外のどんな提案も通るわけはなかった。わたしが各部門に何を言っても「売り上げは上がっているだろ?」とばかりに真剣に取り合ってはくれないのだ。売上貢献が直接給与に反映される人事制度設計なので、当たり前だとも思う。
仕事量が増える中、数人から急激に200人近くに膨れ上がった組織の中で、一定の人間がやめていくのは当たり前だと思っていた。長年採用人事をやっているが、能力の組み合わせパズルのように、人の採用を進めて来た結果が今だ。
新人も、プレゼンがうまい人物が社長の一言で採用されるような傾向が続いている。しかし、ここ数年、毎年5%ずつ離職率が増え続け、ついに今年は25%を超えた。今では4人に1人が辞めていく計算だ。
毎月、各部で1人以上の送別会が行われるという異常事態になっている。
毎月だ。
そんな中、プライベートでは、わたしの奥さんの体調が良くない。
最初は風邪だと思ったが慢性疲労のような症状が出て、2ヶ月も寝たり起きたりを繰り返している。副鼻腔炎も発症して鼻水が止まらないそうだ。
朝もボーっとしていて覇気がない。
最近では買い物に行くのも億劫になったようで、自室で寝てばかりだ。
「なんなんだ。いったい。。。」
わたしは頭を掻きむしりながら、出口のない思いに、つい誰もいないオフィスで声を荒げてしまった。
(つづく)