上司と部下、会社での人間関係、親子関係、夫婦関係、いろいろな関係において、「この人のこういう所が嫌なんだよな」「この人がもう少し、こうしてくれたらなあ」と思うことはあると思います。
■CROSS VIEW「相手が変わるための唯一の方法」
「相手が変わるための実践できる唯一の方法」について、10万人以上の行動を変容させてきた『あり方で生きる』の著者:大久保寛司さんの言葉と、ラグビー協会の理事を務め、コーチのコーチをしている『オフ・ザ・フィールドの子育て』の著者:中竹竜二さんの視点を掛け合わせて、クロスビューしていきます。
大久保寛司さんは、こう言います。
人を変えることはできない。
しかし、人が変わることはできる。
人が変わりたくなる、そのための環境、状況、条件をどうつくるか、ということが大切です。
相手に指を向けて、相手を変えようとするのではなく、指は自分に向ける、そこから解決に至る糸口を掴むことはできるのです。
(中略)
相手を責めて、相手が変わることはありません。
正しいことを言う説教は、相手に受け入れられることはまずありません。
相手の気持ちを理解していない時、正しい言葉に説得力はありません。
相手には必ず、そうする理由があるんです。それなりに。
そこを理解して、相手の気持ちになって、一言声をかける。
人は理解された時、変わる。
変えようとするんじゃないんです。相手が変わるんです。
「あり方で生きる」大久保寛司著より
人を変えるのではなく、相手の気持ちを理解する、すなわち、自分が変わることが第一なのだということです。
こんな話もありました。あるご夫婦で、2 人目の子どもが生まれる前に、妻から夫へ「あなた、今回は実家で産みます」「分かった」「それから、もう二度と帰りません」「なぜだ?」
奥さんは2 歳の子どもを連れて、出ていったそうです。人にはそうする理由がそれなりにあるという言葉を彼は聞いてはいたのですが、理由は全く分かりませんでした。妻の実家に電話をして、妻から話を聞きました。
実は初めての子が生まれた時、家に帰るといつも揉めていたことがありました。
お母さんが赤ん坊に対して、信じられない行動をとっていたのです。
ある意味、自分の産んだ赤ん坊をいじめているような感じでした。
夫は常に言い続けました。
「お前は母親だろう。何をやっているんだ。赤ん坊に対してそんなことをしていいと思っているのか!」
毎晩、これで揉めていたそうです。夫は妻に「どうしてあの時、あんな風だったの?」と冷静に訊きました。
何をしても泣き止まない。どうしていいか分からない。自分は母親になる資格があったのだろうか?と、妻はとても悩んでいたそうです。
「そんなに悩んでいたとは知らなかった。それなのに僕は、ただ正しいことを言っていただけなんだね」
と言って、電話の前で彼は号泣したそうです。翌日から写真や動画が届くようになりました。2 ヵ月後に、奥さんは2 人目のお子さんを連れて帰ってきました。
多くの方は実家に戻った奥さんに対して、次のような言葉を出すと思います。
「2 人目の子どもが生まれるのに、別れるなんてとんでもないこと。シングルマザーになったら、年収は150 万円以下よ。どうやって2人の子どもを育てるの? あなたの旦那さんは立派な会社に勤めて一生懸命やっているのだから、ちゃんと元のさやにおさまりなさいよ」と。
でも、その言葉を聞いて、彼女は元に戻るでしょうか。
元に戻ることはありません。
なぜか?
理由は簡単です。
その人の気持ちを理解していないからです。
相手の気持ちを理解していない時、正しい言葉に説得力はありません。相手には必ず、そうする理由があるんです。
そこの奥深い本当の思いを理解して、それを言葉にして、相手に向きあっていく。そうすると、信じられないくらい、人は変わるんです。
「あり方で生きる」大久保寛司著より
また、中竹竜二さんはこう考えています。
コーチだけの研修の場では、徹底的に自分を振り返ってもらいます。コーチングの仕方とか戦術ではなく、いかにコーチ自身が自分と向き合えているか、ということを大事にしています。そうしないと、コーチは自分のエゴを押しつけてしまいがちなのです。
監督のような立場の人が、自分のエゴを手放せるかどうかはとても重要です。それは親も同様ではないでしょうか。
中竹さんは、コーチのコーチいわゆる指導者を育成しています。その中竹さんは、選手や部下が自分と向き合ってほしいと思うならば、指導者・上司が体現できていることが大事だと言います。
相手を変えようとするのではなく、自分と向き合うことが大切だということです。
また、コーチ・指導者が選手・部下に対しての声掛けのポイントについては、このように述べています。
実際、いいコーチは褒めません。そうではなく、事実を承認するということをしています。たとえば、ある選手のミスで試合に負けたとします。そんなときコーチはどうやって認めるのか。「一生懸命頑張っていたけど、パスを失敗したよね」と声をかけます。
頑張っていたことも認めるし、ミスした事実も認めるのです。そして、「失敗して悔しいよね」と相手が感じていることも伝えます。いいところも悪いところもちゃんと見ているということと、悔しい気持ちもわかっていることを伝える。そこに嘘は一つもありません。人間にとっては存在承認が一番大事です。逆に言うと、人間にとって最大の脅威は無視されることです。その人が存在していることに対して、ちゃんと見ているということを伝える。いいときも悪いときも、誰かがちゃんと見ているということが大事なのです。
大久保寛司さんは数多くの企業を訪問し、沢山の社員と対話しながら、「信頼されるリーダーの特徴」について聞いたところ、その上位3つは、どこに行ってもほぼ同じだったと言います。
信頼するリーダーの特徴
その1は、自分の話をよく聴いてくれる人
その2は、自分を理解してくれる人
その3は、いつも自分を見てくれている人
この3つの特徴も、中竹さんが語る”いいところだけではなく、ミスしたことも見ていると伝えること”や”相手が感じていることを伝える”、という視点にも繋がっていると思います。
いいリーダー、いいコーチは結果的に、部下、選手が自然と良くなっていっています。要は、相手が変わっていく、相手が自然と変わりたくなる働きかけができているといえそうです。
(まとめ)
相手が変わる唯一の方法は「相手を理解すること」
相手を理解する具体的な方法は、1、いい時も悪い時もちゃんと見て、存在の承認者になる2、相手を、相手の心を、理解するためによく見て、話をよく聴くこと
▽新時代のリーダーシップ論~時代の変化に対応できる組織・企業へ
【参考著者】
―中竹竜二( Nakatake Ryuji )
株式会社チームボックス代表取締役
日本ラグビーフットボール協会理事
1973年福岡県生まれ。早稲田大学卒業、レスター大学大学院修了。三菱総合研究所を経て、早稲田大学ラグビー蹴球部監督に就任し、自律支援型の指導法で大学選手権二連覇を果たす。2010年、日本ラグビーフットボール協会「コーチのコーチ」、指導者を指導する立場であるコーチングディレクターに就任。2012年より3期にわたりU20日本代表ヘッドコーチを経て、2016年には日本代表ヘッドコーチ代行も兼務。2014年、企業のリーダー育成トレーニングを行う株式会社チームボックス設立。2018年、コーチの学びの場を創出し促進するための団体、スポーツコーチングJapanを設立、代表理事を務める。ほかに、一般社団法人日本ウィルチェアーラグビー連盟 副理事長 など。
著書に『新版リーダーシップからフォロワーシップへ カリスマリーダー不要の組織づくりとは』(CCCメディアハウス)など多数。
2020年、初の育児書『どんな個性も活きるスポーツ・ラグビーに学ぶ オフ・ザ・フィールドの子育て』を執筆。
◆『オフ・ザ・フィールドの子育て』の紹介◆
本書では、「多様性」というキーワードに着目し、それを独自に育んできたラグビーに学ぶことで、子どもたちに多様性を身につけてもらえる、子育てをよりよくできるのではないかと考えました。
教えてくれるのは、「コーチのコーチ」をしてきた“教え方のプロ”である中竹竜二氏。
さらに、花まる学習会を主宰する高濱正伸先生から、著者の考えに対して、「子育て」や「学び」の観点から、適宜コメントを入れていただきました。また、巻末にはお二人の対談を掲載し、ラグビーに学ぶことの意義についてご紹介しています。
改めて「ワンチーム」という言葉の意味や、ラグビーが大事にしてきた「オフ・ザ・フィールド」という考え方を知ることで、わが子の個性をどのように活かしたらよいかを考えるきっかけとし、わが子が実際に輝ける場所を親子で一緒に見つけてほしいと思います。
“サンドウィッチマン推薦! ”
ラグビーがなかったら、いまの俺たちはいなかったと思う。
「中竹さん、ラグビーから学んだことは、今に活きています! 」
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―大久保寛司( Okubo Kanji )
「人と経営研究所」所長
日本IBMにてCS担当部長として、お客様重視の仕組み作りと意識改革を行う。退職後、「人と経営研究所」を設立し、20年間にわたり、人と経営のあるべき姿を探求し続けている。「経営の本質」「会社の本質」「リーダーの本質」をテーマにした講演・セミナーは、参加する人の意識を大きく変えると評判を呼び、全国からの依頼が多数寄せられ、延べ10万人以上の人々の心を動かしてきた。
特に、大企業・中小企業の幹部対象のリーダーシップ研修、全国各地で定期的に開催されている勉強会では、行動変容を起こす人が続出している。
著書に、『考えてみる』『月曜日の朝からやるきになる働き方』『人と企業の真の価値を高めるヒント』など多数。
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